厳しい環境でこそ良材は生まれる
ヒノキは、木目がとおり、斧や楔で打ち割ることによって製材が出来、加工がしやすい上に緻密で狂いがなく、香りもよく、湿気にも強いことから古くから建築用材として使われてきました。
同じように古くから建築用材として使われているケヤキと比較すると、新材の時には、曲げ強度、圧縮強度ともにケヤキの方がヒノキの約2倍あるということですが、木の組成分であるセルロースの破壊速度がケヤキの方が、ヒノキの5倍も早いというですので、耐久性と言うことでは、やはり、ヒノキの方に軍配が上がりそうです。
古くから宮廷や社寺仏閣の建築用に伐採されてきたヒノキですが、奈良時代には、大きな用材が、既に不足していたようで、近畿から次第に全国にその伐採地域を拡大して行かざるを得なかったようです。鎌倉時代に東大寺を再建した重源上人は、全国を歩きまわり周防の国(山口県)からヒノキの大木を奈良まで運んだということからもヒノキの大木が次第に少なくなっていたことがうかがえます。
20年に一度社を新しく建て替える式年遷宮を行う伊勢神宮では、次第に不足するヒノキを継続的に調達するために18世紀には木曽山を御杣山(みそまやま)と正式に定めてここから本格的にヒノキを調達するようになったのだそうです。
ヒノキを植林する場合には、苗を密生するように植え、他の草や樹木に負けてしまわないように、しばらくは下草刈りを続けなければいけないのだそうです。
また、密植状態のまま放置すると密生した葉のために、樹林に太陽が全く入らなくなり、下草も育たず、林の中の土がどんどん痩せてしまって、栄養不足になってしまいます。そのために間伐が必要となるのです。
良質のヒノキとは、年輪が詰まっていて、きめが細かく狂いが少ないものを言うのだそうですが、そのようなヒノキを育てるためには、丁寧な下刈り、時期に応じた枝打ち、間伐作業の繰り返しが必要なだけでなく、寒暖の差は大きく、養分が少ない土地という環境条件でゆっくりジックリと年輪を重ねることが必要だとされています。
木曽谷では、冬の寒さが、山の中ではマイナス10℃~20℃になることもしばしばあるようですし、険しい山々が多くの雨を降らせ表土を流してしまいます。このような厳しい環境のもとで永い年月をかけて大木に育てられたヒノキがだけが、「木曽のヒノキ」と呼ばれることになるわけです。
* 御杣山(みそまやま):伊勢神宮で行われる式年遷宮で使われる用材を伐りだす山
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