招魂の木「オガタマ」
言霊(ことだま)と言う言葉を聞いたことがありますか。
古くから日本人は、言葉には、霊が宿っていて、その霊の持つ力によって、言葉に表したことは、実際におこるものだと考えていました。万葉集には、日本は言霊の力によって幸せがもたらされる「言霊の幸(さき)わう国」だという歌もあるそうです。
声に出した言葉は、現実の事象に何らかの影響を与えると信じられて、良い言葉を発すると良い事が起こり、不吉な言葉を発すると凶事が起こるとされてきました。今も残る「忌み言葉」は言霊の思想に基づくものだと考えられます。植物のアシ(葦)は「悪し」に通じるとしてヨシ(良し)と読ませたり、私の郷里下関では魚のフグは(不具)に通じるからフク(福)と呼ぶという習慣が伝わっています。
JICA海外シニアボランテイアとしてカンボジアへの派遣が決まって、出発前に夫婦で京都を訪れました。その時、鞍馬寺から貴船神社まで山道を歩いたのですが、鞍馬寺金堂を過ぎて、峠を目指して山道を歩いている時に今までに見たことのない花を見つけました。 後で調べてみて、5月に花が一つだけ残っていたこと、花が淡いクリーム色であったこと、強いバナナの香りがあったことから、カラタネオガタマ(唐種招霊木)の花だったのだとわかりました。日本では、常に青々とした緑を保つ常緑樹のなかで先端がとがった枝先を持つマツやオガタマノキなどは、神が降りる神聖な木として「賢木(さかき)」と考えられてきました。神様の住む聖域と人間世界との「堺」を示すための木、つまり「境木」としてオガタマの木が植えられていたのでしょうか。
オガタマは、「招魂(おきたま)」が変化したものだと考えられ、サカキ(榊)とともに神聖な木として考えられてきました。しかし、サカキの方が身近で手に入りやすかったために今では、神事というとサカキと言うことになってしまったようです。サカキ(榊・賢木・境木)という一つの言葉にもいろいろな意味が含まれているのが日本語なのですね。
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